たった2ミリの改善が社会に大きな影響を及ぼす
年間1.8トンの廃棄物削減を実現したひとりの社員のアイデア
山形県東根市を拠点とする山形工場は、ベーリンガーインゲルハイムの医薬品を日本国内だけでなくアジア・オセアニア地域など世界に供給するための重要な製造拠点です。
医薬品の製造には、錠剤をプラスチック資材などで包装する工程が含まれます。医薬品を安全に患者さんにお届けする上で重要な役割を果たす一方で、多くの廃棄物を生み出すプラスチック包装材。山形工場では、ひとりの社員の発案で年間1.8トンのプラスチック包装材の廃棄物を削減することに成功しました。その発案者である後藤 祐子さんが、KAIZENの声をあげた背景から、プロジェクト実現までの道のりをご紹介します。
2024年7月29日
ベーリンガーインゲルハイム製薬
山形工場包装部包装第二グループ
後藤 祐子さん
「包装の仕事はゴミを作る仕事…?」
包装部門のひとりの社員の発案で始まった、廃棄物削減の取り組み
私は2001年に入社して以来、20年以上包装部門の仕事に携わっています。医薬品の品質を維持し、安全に患者さんの手元に届けるために必要不可欠である包装業務を、私はとても誇りに思っています。
しかしある日、包装業務に携わられている他社の方との交流の機会にショックな話を聞きました。その方が、ご担当されている顧客から「いったん製品を取り出せば、包装はゴミになってしまう」と言われたという話でした。私は自分自身が誇りに思っている包装という仕事が、別の視点からはゴミを作る仕事にも捉えられるということに、とても悲しい気持ちになりました。
また、日々の包装工程で生じる廃棄物を目にすると、「私たちの仕事は、こんなにたくさんの廃棄物を出してしまうんだな……」と罪悪感も生じました。
私は二人の子どもをもつ母親でもあります。次の世代により良い未来を受け継いでいきたい。そのために、自分にできることの中で廃棄物を減らす工夫ができないか——そんな思いが、今回のプロジェクトをスタートする原動力となりました。
チャレンジする前から諦めたくない
プロジェクトチームとメーカーが共闘して突破口を模索
山形工場には「KAIZEN」と呼ばれる社員のアイデアを吸い上げる仕組みがあり、年間1000件を超えるKAIZEN提案が上げられます。そこで私は、包装工程で発生する包装材のサイズ(幅)を縮小して資源の無駄を削減するアイデアを提案しました。まずはやってみよう、とプロジェクトチームが発足。私から社内で声かけをして、包装部の仲間に加えて、包装材を取り扱う部門や品質管理部門などから5名のメンバーが集まってくれました。
医薬品製造において一番重視されるのは医薬品の品質なので、包装材のサイズを縮小することで医薬品の品質を落としては元も子もありません。そこで、医薬品の品質に影響を与えることなく包装材のサイズを縮小できないか、まずは包装機械メーカーに相談をしました。しかし、包装機械にはさまざまな要素を考慮して決まった包装材のサイズ等の規程があるため、一企業の提案は当然ながらすぐには受け入れてもらえるものではありませんでした。
でも、私たちはチャレンジする前から諦めたくはありませんでした。「どうすれば実現できるんだろう?」とポジティブな思考に切り替えて、その実現可能性を探るため、チームで徹底的に包装機械のことを調べて知識を深めました。そして、包装材のサイズの縮小が医薬品の品質や包装機械の性能に影響を与えないことを確認するために、実際に機械の設定を調整しながら何度も実験を繰り返し、データを蓄積しました。
こうして「これならば品質に影響なく包装材のサイズ変更を提案できる」という確信をもって、再度、包装機械メーカーの方に相談しました。そういった私たちの熱意と行動を見て、メーカーの方々も一緒になってプロジェクト実現に向けて協力してくれるようになりました。私たちのアイデアにメーカーの技術部門の方のプロフェッショナルな知見が加わることで、プロジェクトの実現が現実味を帯びてきました。
たった2ミリの改善で年間1.8トンのプラスチック廃棄物削減、
年間廃棄物11パーセント削減に成功
プロジェクトチームの粘り強いアイデア出しと検証、そして包装機械メーカーの協力を得て、包装材の廃棄物削減を実現しました。それは、包装材のプラスチックフィルムを接合する際に破棄される部分の幅を2ミリ削減するというものです。たった2ミリの削減ですが、これは工場から出る年間廃棄物の11パーセントに相当する1.8トンの廃棄物削減の効果を生みました。さらに、必要とされる包装材の総量が減ったため、物流効率の改善といった思わぬ効果も生まれました。
このプロジェクトの成功を受けて、山形工場では新たな包装材の廃棄量削減の取り組みも既に始まっています。ともにプロジェクトに取り組んだ包装機械メーカーは日本市場で高いシェアを占めていることから、他の製薬企業メーカーにもこの取り組みが導入され、山形工場だけでなく日本全体の包装材削減につながることも期待しています。
チャレンジを奨励するKAIZEN文化
山形工場で働いていて、上司や同僚からよく声をかけてもらうのが「どんどんチャレンジしようよ。失敗してもいいじゃない」という言葉です。今回のプロジェクトでも、私の提案は最初から完璧なプランではありませんでしたが、「山形工場として良い改善ができるなら」と工場全体で惜しみなくサポートしてくれました。このプロジェクトは、このような風土があったからこそ成功したと思っています。
「行動しなければ何も始まらない。ポジティブな行動は周りを動かす力になる」。それが今回のプロジェクトで学んだことです。ベーリンガーインゲルハイムは、世代を超えた持続可能な開発への取り組み(Sustainable Development for Generations)をグローバル全体で実践しています。今回の取り組みは、そのひとつの柱である「More Green - 地球環境のために」への貢献にも通じるものです。これからも、山形工場の仲間とともにKAIZEN活動を続け、より良い未来に貢献する取り組みを続けていきたいです。